ごぉう、よん、さぁーん・にぃー...。

三塁側フロンティアーズ応援席からカウントダウンと歓声。木之下(#19 QB)がニーダウンで電光計時を進める。時刻は午後９時２４分。 スコアボードには7対14の表示。RB#20の後ろ姿が前後に揺れていた。

98年春、5月16日（土）川崎球場、夕刻のキックオフでフロンティアーズはオンワードとパールボウル、セミファイナルを戦っていた。フロンティアーズオフェンスチームにRB#20の姿はない。

二年前のこの試合の前、RB#20は「この次のドーム（決勝）には間に合いますから.. 」と少しはにかみ言った。

選手の集中がきれないようにと、試合前には意識して声をかけない。そのことを忘れ声をかけた答えだった。

3対3でお互いに譲らなかったゲームは終了前4４秒に予想もしない展開を迎える。オンワードのフィールドゴールキックがゴールポスト18フイート6インチの間をゆっくりと通過。

オンワードが18ヤ−ドのフィールドゴールを成功させ３対６。RB#20の願いは無惨にも打ち砕かれた。パールボウルファイナルへの切符は掴みかけたフロンティア−ズの手を通り抜けオンワードが握りしめた。

僅か「ひと蹴り」の差だった。

傷を負い参戦できなかったRB#20は、縦360フイート、横160フイートの戦場のサイドライン50ヤ−ド付近を見つめ動かなかった。悔しさが背中に出ていた。

また、昨年のパールボウルでは同点（21-21)で迎えた終了三秒前、21ヤ−ドのフイ−ルドゴールをオンワードに決められ、惜敗。

オンワード戦には、このページでは書き尽くせない、両手に有り余る多くの思いがフロンティア−ズファンそして選手、関係者にある。

試合に戻ろう。RB#20は序盤には鮮やかな五回連続キャリーでゴール前10ヤ−ドに攻め込み、小島(#18 WR)の先制タッチダウンに繋いだ。 試合終了残り８分では35ヤード独走のタッチダウン。

この日、安定感のある、ディフェンスチームの激しく堅いプレイを観ていたファンは、前述の惜敗シーンを微塵も思い浮かべなかった。誰もがフロンティアーズが勝負を決めたと確信したRB#20のタッチダウンであった。

.......いちっ！、ぜろっ！。93年以来七年ぶりのオンワード戦勝利。91年以来の開幕２連勝。ファン待望の瞬間だった。フロンティアーズ応援席が大きく揺れている。

三塁側、ベンチ付近にはオンワード戦へのフロンティアーズファン、選手、そして自分自身への込み上げる思いを込め、この大きな勝利に涙する#20　RBの姿があった。

RB#20の名は森本裕之。 この勝利は夢への通過点、

臥薪嘗胆 。

（たかばきんぞう 9th oct '00　E01