撮影機材一式を抱え、午後五時過ぎの新大阪駅発ひかり号１号車に飛び乗る。

前席の座席番号「９E席」では男性がフロンティアーズのチームメンバー表に目をやる。ロンティアーズ男性ファンの満ち足りた思いの横顔が京都の夜景とオーバラップして車窓に写る。

雨は、試合開始前に小降りとなり、午後１時のキックオフにはピタリと降り止んだ。

松下電工側応援席のメインスタンドから、屋根のないフロンティアーズ応援席のサブスタンドに赤地に黄色で『F』と描かれた旗をもったファンが移動。 大阪、長居の戦いが始まった。

試合前、メインスタンドの１階フロンティアーズ控え室では最後のチームミーティングが行われていた。 カート（ヘッドコーチ）は「We are great team!,We are great team!」と繰り返した。

そして「全員が一つになれば.」、その後は選手の「いこうぜっ！、おうっー！」という雄叫びにかき消され、聞きとれなかった。

決戦前夜、ミーティングは、ごく短時間で終わる。奥監督は選手に王者の風格を感じていた。ミーティング後、選手の幾人かは兼安ディフェンスコーチ持参の「ロッキー」のビデオを観た。戦い前の昂る気持ちを確認するように。

翌朝、戦いの場、長居球技場へ向かう車中、前列の選手が「眠れなかった」ぽつりと言った。ビッグゲームを前に選手の緊張と興奮はピークに達していた。目をつぶると「勝てば東京スーパボウル」の文字。

フロンティアーズには関西出身の選手が多い。大阪（長居の）試合は「アウェイ」というより、「ホーム」に戻って試合を行うようなもの。 隣席の山村（QB/WR #81 )は「電工にいる先輩には、プレイスタイル（自分の）を知られているので....。」とつぶやいた。

しかし、「今年のチームは勝ち方が分かってきている」、ときっぱりと言った。 フロンティアーズは地区全勝優勝を達成していたが、長居遠征前の日産戦で木之下（QB #19)が傷ついていた。満身創痍でのぞんだ長居戦だった。

なんとしても東京に「勝って帰る」という気持ちが痛みをやわらげ、プレイを継続させていた。 長居競技場の時計は午後３時48分。雨上がりの長居球技場は空が黄金色に染まり、雲がきらきら光っていた。

夜汽車の車窓は画面サイズ16対９、アスペクト比のハイビジョンテレビ。

台風接近で小雨まじりの大井のレナウン戦、高橋（RB #1)の60ヤードパントリーターンTD。 森本（RB #20)が号泣、強いフロンティアーズが戻ってきたと誰もが確信した東京ドームオンワード戦。

等々力球場、長谷川(k #17)の43ヤードフイールド・ゴールそして傷を負いながらシルバースター金岡(QB）をしとめ、その反撃を封じ込めた時本(LB #5)のQBサック。

ゲーム終了前、木之下（QB #19)のニーダウンプレイの後、みんなで数えたカウントダウン、すかいらーく戦、歓声は西武ドームに鳴り響いた。

クラブダイノス戦、 63ヤードのビッグゲイン。Xリーグ・ラッシング新記録を打ち立てた森本（RB #20)の走りとチームメイトの心配り。 今シーズンのフロンティアーズの戦いが次々と鮮やかに夜汽車の車窓に浮かぶ。その映像が途中から、少し滲んだ。

サブスタンド前で、チア ユミこと、川内（フロンティアレッツ）が涙をこらえながらフロンティアーズファンにメッセージを送っている。 フロンティアレッツ全員が目に涙していた。

ドーム（東京スーパボウル）、そして正月（ライスボウル）を戦えない「悔しい涙」。師走まで戦えた「感謝の涙」。選手、関係者そしてファンはそれぞれの想いで長居の結果を時間をかけ受容していった。

フイールドに水口(#83 WR)を確認し、彼の背中を二度叩いてねぎらい、右手で握手をした瞬間、目頭をおおい、とめどもなく溢れるものがあった。

この秋、フロンティアーズファンは心踊り、わくわくする日々を何度も経験した。しかし、ファンは我がフロンティアーズはこのレベルで終わるチームではないと確信している。そのことは選手自身が一番良く知り、感じている。

このシーズンに夢は叶わなかったが、右手の中指で少し触れた気がする。正月３日、ドームで応援できる日も近い。NAGAIの涙は忘れない。

臥薪嘗胆 。

（たかばきんぞう 5th dec '00）