フロンティアーズディフェンスチームのメンバーが一人4０ヤード付近、シルバースター側サイド近くで、片ヒザをつき右ひじを左手で押さえ、微動だにしない。

ゲームはまだ序盤。先制タッチダウンをWR#80 佐藤が奪い、三塁側フロンティアーズ応援席にはざわめきが残っている。

シルバースターサイドの後方に、当社、中原工場のビルが見える。シルバースターは前後をフロンティアーズに挟まれ、サンドイッチ状態..。

カメラのファインダから目をはなし、漠然と空を観ていた。その一瞬の出来事だった。何が起こったかを理解するまでに少し時間があった。

その方向に向けた取材用の400mmのレンズからファインダーを通ってきた光はユニフォームの右肩に「５」の映像をクリアに結んだ。

背筋が凍りつく瞬間だった。 この春まではフロンティアーズの攻守のプレイに「ためらい」を感じていた。

オフェンスチームはブレーキに足を置きながらアクセルを踏み込むような..。また、ディフェンスチームの当たりは最後のワンステップがなかった。

ハードタックルではなく、ソフトタッチのようにファンには思えた。 ところが、この秋は、選手の動きが春までとは全く違う。

既にフロンティアーズのQB#15中澤、TE#47主将　嶋、QB#11青木など主力選手がシルバースター戦までに傷ついている。獰猛で激しい攻め、ぶ厚く堅い守りは結果として選手に深い傷を負わせている。

そんな中でのLB#5のその動かぬ姿に身震いがした。トレーナ と ドクターに支えられ退場したLB#5は短時間で何もなかったようにフイールドに戻っていた。

時折、右ひじに手をそえる挙動以外はほとんど何もなかったようにディフェンスの中心で守り続けていた。 第四クオータにはシルバースターの反撃かと思わせるに十分な勢いの出始めたQB#8金岡をサック。 反攻の気持ちを押さえ込んでいた。

シルバースター戦はオフェンスチームのみならず、最後まで集中を切らさず、あのシルバースターを「僅か、ワンドライブに押さえた（カートローズ　ヘッドコーチ）」ディフェンスチームの活躍が大きい。

春にLB#5はNFLヨーロッパに旅立つ前に「今までに体験したことのないレベルの中で、自身の能力を限りなく高めると共に、多くの事を吸収してきたいと思います。

また,帰国後はプロリーグで学んだことをフロンティアーズに伝え、今年こそ優勝したいと思います。」と語っている。

LB#5が負傷（脱きゅう）し欠場と知ったのは西武球場、スカイラーク戦の第一クオータだった。負傷の表情をフイールドでいっさい見せなかったLB#5。

NFLヨーロッパ、プロリーグキャンプで揉まれた男、LB#5　時本の意地があった。

臥薪嘗胆 。

（たかばきんぞう 21st oct '00　E01）