Kinzo eyes

　カウントダウンのファンの声は湿っていた。フロンティアーズ応援席のファンは西武ドーム三塁側で勝利の瞬間を待っていた。木之下(#19 QB)の２度目のニーダウンの後、カウントダウンがはじまる。一般的に、カウントダウンはいまかいまかと勝利を待ち望み、一刻も早くその瞬間をと、心急ぎ徐々に加速していく。しかしこの日のカウントダウンはあくまでも正確にカウントを刻んでいった。プレーオフを勝ち抜き、東京スーパーボウルを戦い、春には東日本一を決めたフロンティアーズがこの試合に負ける「はず」はない。勝利の行方はフロンティアーズが握っている。三塁側にいるファンはキックオフ直後から、試合中も、誰もその一点を疑っていなかった。

　この日の東京ガスクリエイターズ（以降、クリエイターズと略）の試合では、両チームの勢いは少し違っていた。Ｘリーグに昇格したばかりのクリエイターズは、悔しいけれど、我がフロンティアーズを少し超えていた。激しく攻めるクリエーターズ・オフェンスとフロンティアーズディフェンスがぶつかりあう場面。一触即発、にらみつけるクリエイターズ・オフェンス。大人の振舞いをする我がディフェンスチームはその作戦には乗らなかった。...が、勝利への執念・勢いではクリエイターズが上回っていた。

　　キックオフから前半終了までの二つのクオータの間、「スロースタータだから...（フロンティアーズは）」、と言う声がサイドラインのフロンティアーズチームエリアから時折聞こえた。クリエイターズはゲームのキックオフ直後からギアをトップスピードにセットし、ぶつかってきた。後半になって、フロンティアーズらしいプレイが出てきた。オフェンスチームは飯嶋が、水口が走り、ムツミの好レシーブ、森本そして小島がタッチダウンを奪った。

　試合後、ムツミ（主将　#22 RB)は米国アリーナフットボールに参戦、帰国後２度目の挨拶に立った。「これが今のフロンティアーズの実力です」。ムツミはこの一戦に勝利したものの、チームを率いる主将として何かを感じ、唇を噛みしめながら言葉少なに挨拶を締めた。その姿は勝利チームの喜びにあふれたファンへのメッセージではなかった。ファンが思う以上に選手・チーム関係者はこの試合を冷静に分析していた。フロンティアーズの真の実力が見られる日が待ち遠しい。（たかばきんぞう:)